March 12th, 2010

2009年 F1 ドライバーズ「裏」チャンピオンシップ

 2010年のF1シリーズが開幕したというのに、今さら「裏」チャンピオンなどをこしらえようという話である。

 事の始まりは、今シーズンからポイント制度が改定されること。2003 年に、1~8 位までを入賞とし、上位から 10-8-6-5-4-3-2-1 と改定して以来の出来事である。今年からは10位までを得点対象として、上位から 25-18-15-12-10-8-6-4-2-1 …「ポイントのインフレ」とでも言いたくなるほどの大改定だ。その理由は「勝者の価値を高めるため」というもの。つまり重要なのは「1位と2位のポイント差」であり、これが大きいほどドライバーは貪欲に首位を狙うだろう…というのが新制度の趣旨。

 ここで素朴な疑問がわいた。そもそもポイント制度は主観的なものであり、勝者の価値を示す客観的な理由に基づいたものではない。ブッチギリの勝者と僅差の勝者を同じ価値で測っていいのだろうか。仮に勝者の価値は変わらないと見る向きがあったとして、ブッチギられた2位と最後まで食らいついた2位は同じ点差で価値をつけるべきか。

 ところで、みなさんは「偏差値」をご存知だろうか。ナントカ偏差値みたいな誤用も多いが、本来は「平均を基準とした相対的な位置」を示す指標であり、「(得点-平均点)/標準偏差」で計算できる。(得点-平均点)に10を掛けて計算した結果に50を加えると、思い出すのも嫌になる学力試験の偏差値になる。レースの勝者は(当然)最も高い平均時速を記録する。そこで、各ドライバー各レースの平均時速を得点とし、各ドライバーのレースごとの偏差値を求めてそのレースの得点とする*1…というのはどうだろう。平均に対する相対的な位置だから、何ポイント取れるのかはレース終了まで分らない。つまり、シーズン終盤の得点戦略がなくなる。ブッチギリの勝者ほど得点は高いとなれば、その方が貪欲に首位を狙いはしないだろうか。

 そんな(馬鹿な)ことを思いついて、試しに2009年シーズンの全17戦を算出してみた。比較として最初に2009年シーズンの最終結果をご覧いただきたい。前半戦はバトンが圧倒的に強く、バリチェロが食い下がり、ベッテルで〆た…というのが昨シーズンの構図。チャンピオン決定後、バトンの後半戦の低迷に対してチャンピオンの資質云々の意見も残った。

2009年 F1 ドライバーズ・ポイント(手抜き)

順位

ドライバー

R1

R2

R3

R4

R5

R6

R7

R8

R9

R10

R11

R12

R13

R14

R15

R16

R17

合計

1

ジェンソン・バトン

10

5

6

10

10

10

10

3

4

2

2

-

8

4

1

4

6

95

2

セバスチャン・ベッテル

0

0

10

8

5

-

6

10

8

-

-

6

1

5

10

5

10

84

3

ルーベンス・バリチェッロ

8

2

5

4

8

8

-

6

3

0

10

2

10

3

2

1

5

77

4

マーク・ウェーバー

0

1.5

8

0

6

4

8

8

10

6

0

0

-

-

0

10

8

69.5

5

ルイス・ハミルトン

 

1

3

5

0

0

0

0

0

10

8

-

0

10

6

6

-

49

6

キミ・ライッコネン

0

0

0

3

-

6

0

1

-

8

6

10

6

0

5

3

0

48

7

ニコ・ロズベルグ

3

0.5

0

0

1

3

4

4

5

5

4

1

0

0

4

-

0

34.5

8

ヤルノ・トゥルーリ

6

2.5

-

6

-

0

5

2

0

1

0

-

0

0

8

-

2

32.5

9

フェルナンド・アロンソ

4

0

0

1

4

2

0

0

2

-

3

-

4

6

0

-

0

26

10

ティモ・グロック

5

3

2

2

0

0

1

0

0

3

0

0

0

8

 

 

 

24

11

フェリペ・マッサ

-

0

-

0

3

5

3

5

6

 

 

 

 

 

 

 

 

22

12

ヘイッキ・コバライネン

-

-

4

0

-

-

0

-

1

4

5

3

3

2

0

0

0

22

13

ニック・ハイドフェルド

0

4

0

0

2

0

0

0

0

0

0

4

2

-

3

-

4

19

14

ロバート・クビサ

0

-

0

0

0

-

2

0

0

0

1

5

-

1

0

8

0

17

15

ジャンカルロ・フィジケラ

0

0

0

0

0

0

-

0

0

0

0

8

0

0

0

0

0

8

16

セバスチャン・ブエミ

2

0

1

0

-

-

0

0

0

0

-

0

0

-

-

2

1

6

17

エイドリアン・スーティル

0

0

0

0

-

0

0

0

0

-

0

0

5

-

0

-

0

5

18

小林可夢偉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

3

3

19

セバスチャン・ブルデー

1

0

0

0

-

1

0

-

-

 

 

 

 

 

 

 

 

2

20

中嶋一貴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

21

ネルソン・ピケ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

22

ヴィタントニオ・リウッツィ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

23

ハイメ・アルグエルスアリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

24

ロマン・グロージャン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

25

ルカ・バドエル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

 
 これを、偏差値で評価するとどうなるか。一例として第1戦バーレーンGPから計算する。なお、リタイヤしたドライバーの速度が斜体表記となっているのは、仮に完走した場合の換算値と理解していただきたい。

2009年 F1 第1戦 バーレーンGP 最終結果(総走行距離…1周 5.303km × 58周)
全ドライバーの平均速度…159.2km/h、標準偏差…65.4

順位

ドライバー

トータルタイム

周回

速度 (km/h)

偏差値

本来の得点

1

ジェンソン・バトン

1:34'15.784

58

195.7759349

0.5592329

10

2

ルーベンス・バリチェッロ

1:34'16.591

58

195.7480044

0.5588058

8

3

ヤルノ・トゥルーリ

1:34'17.388

58

195.7204279

0.5583842

6

4

ティモ・グロック

1:34'20.219

58

195.6225369

0.5568873

5

5

フェルナンド・アロンソ

1:34'20.663

58

195.607193

0.5566527

4

6

ニコ・ロズベルグ

1:34'21.506

58

195.578067

0.5562074

3

7

セバスチャン・ブエミ

1:34'21.788

58

195.5683258

0.5560584

2

8

セバスチャン・ブルデー

1:34'22.082

58

195.558171

0.5559031

1

9

エイドリアン・スーティル

1:34'22.119

58

195.5568931

0.5558836

 

10

ニック・ハイドフェルド

1:34'22.869

58

195.5309932

0.5554876

 

11

ジャンカルロ・フィジケラ

1:34'23.158

58

195.521015

0.555335

 

12

マーク・ウェーバー

1:34'16.197

57

192.149963

0.503789

 

13

セバスチャン・ベッテル

1:29'54.225

56

188.778911

0.452243

 

14

ロバート・クビサ

1:27'13.838

55

185.407859

0.400697

 

15

キミ・ライッコネン

1:28'59.301

55

181.7456439

0.3446989

 

 

フェリペ・マッサ

リタイヤ

45

148.7009813

-0.160579

 

 

ネルソン・ピケJr.

リタイヤ

24

79.30719005

-1.221664

 

 

中嶋一貴

リタイヤ

17

56.17592628

-1.575359

 

 

ヘイッキ・コバライネン

リタイヤ

0

0

-2.434332

 

 

ルイス・ハミルトン

失格

0

0

-2.434332

 

 

 …ポイント少なっ!…不安が残るが、同様に全17戦計算した結果が以下の表である。表としては見づらさ極まりないので、偏差値は小数点以下第三位で四捨五入して表示した。そのため順位が異なっていても同じ得点で表示されるが、小数点以下第四位より下の桁で差は付いている。また合計得点も誤差を示すので要注意。とにかくランキングさえ見ていただければいい。

Motor Warp制定 2009年 F1「裏」ドライバーズ・ポイント
(空欄は出走せず、ポイントは小数点以下第三位で四捨五入表示)

順位

ドライバー

R1

R2

R3

R4

R5

R6

R7

R8

R9

R10

R11

R12

R13

R14

R15

R16

R17

合計

1

ルーベンス・バリチェッロ

0.56

0.4

0.44

0.46

0.68

0.59

-0.66

0.43

0.35

0.42

0.41

0.61

0.6

0.55

0.31

0.64

0.37

7.17

2

ティモ・グロック

0.56

0.43

0.44

0.44

0.62

0.52

0.3

0.38

0.32

0.44

0.3

0.61

0.48

0.57

     

6.41

3

ジェンソン・バトン

0.56

0.45

0.46

0.65

0.68

0.59

0.35

0.42

0.35

0.43

0.37

-1.87

0.59

0.56

0.31

0.64

0.38

5.92

4

ニコ・ロズベルグ

0.56

0.38

0.33

0.36

0.66

0.58

0.32

0.43

0.36

0.45

0.38

0.61

0.28

0.54

0.31

-0.97

0.35

5.91

5

マーク・ウェーバー

0.5

0.4

0.48

0.32

0.68

0.59

0.34

0.48

0.38

0.45

0.35

0.61

-2.78

-0.43

0.09

0.66

0.38

3.5

6

キミ・ライッコネン

0.34

0.31

0.42

0.44

-1.06

0.59

0.3

0.39

-2.16

0.46

0.39

0.63

0.57

0.54

0.31

0.64

0.34

3.45

7

ニック・ハイドフェルド

0.56

0.43

0.42

-0.3

0.66

0.51

0.29

0.2

0.32

0.42

0.35

0.63

0.54

-1.97

0.31

-1.18

0.37

2.53

8

ジャンカルロ・フィジケラ

0.56

0.09

0.33

-0.25

0.61

0.56

-4.26

0.38

0.32

0.37

0.33

0.63

0.53

0.53

0.3

0.62

0.22

1.87

9

フェルナンド・アロンソ

0.56

0.34

0.43

0.39

0.67

0.57

0.29

0.24

0.35

-2.25

0.37

-0.42

0.55

0.56

0.3

-1.94

0.33

1.34

10

小林可夢偉

                             

0.63

0.37

1

11

ルカ・バドエル

                   

0.13

0.58

         

0.72

12

ビタントニオ・リウッツィ

                       

-1.46

0.52

0.3

0.62

0.31

0.3

13

フェリペ・マッサ

-0.16

0.37

-2.79

-0.22

0.66

0.59

0.31

0.43

0.36

               

-0.45

14

セバスチャン・ベッテル

0.45

0.2

0.49

0.62

0.68

-1.96

0.34

0.5

0.37

-1.58

-3.89

0.63

0.53

0.56

0.32

0.65

0.39

-0.69

15

ネルソン・ピケJr.

-1.22

0.33

0.24

0.33

0.62

-2.15

0.18

0.24

0.31

0.42

             

-0.71

16

ロバート・クビサ

0.4

-2.93

0.41

-0.27

0.62

-1.44

0.3

0.24

0.31

0.42

0.36

0.63

-1.88

0.54

0.31

0.65

0.35

-0.98

17

ルイス・ハミルトン

-2.43

0.39

0.44

0.54

0.62

0.51

0.27

0.15

0.2

0.46

0.41

-1.87

0.42

0.57

0.31

0.65

-2.9

-1.27

18

ヤルノ・トゥルーリ

0.56

0.4

-2.97

0.61

-1.66

0.51

0.32

0.39

0.29

0.42

0.33

-0.7

0.36

0.53

0.31

-1.94

0.36

-1.88

19

中嶋一貴

-1.58

0.33

-0.74

-4.11

0.62

0.47

0.28

0.38

0.32

0.42

-0.11

0.6

0.48

0.54

0.3

-0.86

0.34

-2.31

20

ロマン・グロージャン

                   

0.3

-1.87

0.34

-2.92

0.19

0.59

0.21

-3.17

21

エイドリアン・スーティル

0.56

0.2

-0.12

-0.26

-1.66

0.51

0.18

0.15

0.31

-2.93

0.35

0.61

0.57

-1.73

0.3

-1.94

0.21

-4.69

22

ヘイッキ・コバライネン

-2.43

-3.04

0.44

0.27

-1.41

-0.53

0.19

-3.05

0.32

0.44

0.38

0.62

0.55

0.55

0.3

0.62

0.35

-5.43

23

セバスチャン・ブルデー

0.56

0.35

0.42

0.26

-1.66

0.56

0.17

-2.91

-3.66

               

-5.91

24

セバスチャン・ブエミ

0.56

0.2

0.44

-0.27

-1.66

-2.15

0.19

0.15

0.29

0.35

-1.69

0.61

0.36

-0.31

-4.12

0.64

0.36

-6.08

25

ハイメ・アルグエルスアリ

                 

0.36

0.17

-1.87

-1.64

-0.31

-0.75

0.58

-3.09

-6.54

 
 何とバリチェロをチャンピオンにしてしまった!2位グロックも、バリチェロ以上のサプライズである。現在のF1レースが上位から下位まで殆ど差がなく、リタイヤも起こり難いことが、この「仰天スコア」の原因である。それゆえ、1度のリタイヤが大きな痛手となる。ダンゴ状態で完走する(平均)中、ブッチギリで敗北したことになるからだ。ベッテルが予想外に下位に沈んだのは早期リタイヤの回数が影響している。バリチェロ、グロックは総じて上位で完走し序盤のリタイヤが少なかった(グロックは出走全戦完走扱い)ことが「裏」チャンピオンの要因となった。地味かもしれないが、レースデータを取るという意味では絶対的に「計算できる」ドライバーなのだ。このスコア、「ドライバーに掛けられた期待に対して、どれだけ期待に沿えたか」という見方をすると、あながち仰天でもないように思えてくるし、他にも色々な解釈ができておもしろい。

 とはいえ、一度や二度のリタイヤで大幅減点とは、さすがに不条理が過ぎる。チャンピオンの条件として「最低1勝」を適用しようかとも思ったが、ここでは、かつてあった「有効ポイント」を引っ張り出してみた。最近では、1985~1990年まで全16戦のうち、ベスト11戦を有効得点としていた。これに倣って全17戦に対しベスト12戦を有効得点とした場合、ポイント/順位はこのように変わる。

Motor Warp制定 2009年 F1「裏」ドライバーズ・ポイント[改正版]
(有効得点:ベスト12戦、ポイントは小数点以下第五位で四捨五入表示)

順位

ドライバー

有効得点

1

ジェンソン・バトン

6.4216

2

ルーベンス・バリチェッロ

6.4011

3

セバスチャン・ベッテル

6.213

4

マーク・ウェーバー

5.9558

5

ティモ・グロック

5.8029

6

ジャンカルロ・フィジケラ

5.7732

7

キミ・ライッコネン

5.7546

8

ニコ・ロズベルグ

5.6479

9

ルイス・ハミルトン

5.5893

10

ニック・ハイドフェルド

5.5063

11

フェルナンド・アロンソ

5.4336

12

ロバート・クビサ

5.313

13

ヤルノ・トゥルーリ

5.1006

14

中嶋一貴

5.0854

15

ヘイッキ・コバライネン

5.0377

16

セバスチャン・ブエミ

3.8589

17

エイドリアン・スーティル

3.8258

18

小林可夢偉

0.9956

19

ルカ・バドエル

0.7151

20

ビタントニオ・リウッツィ

0.2956

21

フェリペ・マッサ

-0.4498

22

ネルソン・ピケJr.

-0.7061

23

ロマン・グロージャン

-3.1675

24

セバスチャン・ブルデー

-5.9094

25

ハイメ・アルグエルスアリ

-6.5412

 

…なんか、丸く収まってしまったようで呆気ないのだが、チャンピオンシップとして考えるなら妥当なところ。なおかつ中盤あたりを見ると、2009年のドライバー/マシンパフォーマンスを客観的に示している様にも見える。ちなみに、この有効得点を出走回数(全戦出走者は有効ポイント12戦分)で割ると、トップは小林可夢偉選手であったことを付け加えておく。

 この原稿の完成時点では、2010年シーズン第1戦の1回目のフリー走行が終了し、スーティルがトップタイムとなった。いつかこういったサプライズがやってくるからF1はおもしろい。ここまで馬鹿な遊びで楽しんだ分、「裏」チャンプの巻き返しに期待したい。バリチェロはコスワースエンジンの、グロックは初のオールCFD設計マシンの「物差し」となりうるのだから。

*1:偏差値は「得点」ではないのですが、そこを敢えて。

(管理人)

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