May 6th, 2008

Save AGURI !

1. 訴えたいこと

 2008/5/6現在、各メディアは、Super Aguri F1 (以下 SAF1)の運営が絶望的な状況にあると報じています。SAF1は、5/2に、ドイツ WEIGL Group AG (以下 Weigl)との売却交渉が、合意に向けて最終局面に入ったと公表しました。しかしながら、Honda Racing F1 (以下 HRF1)のCEOであるNick Fryは、Weigl の財政を疑問視し、この売却交渉の承認に難色を示したばかりか、F1の主催者であるFOMに対して「SAF1がトルコGPに出場しない」と通知したというのです。この通知によって、SAF1はサーキットへの入場拒否を受けている状況です。

 HRF1 は、直ちにFOMへの通知を取り消すべきです。私は、今回 HRF1 が SAF1 に対してとった行動は愚行であると考えます。
 SAF1は、HRF1の傘下企業ではありません。独立したチームなのです。

 確かに、SAF1は、HRF1 および Honda から、膨大な金銭的支援を受けています。また、技術支援の側面から見れば、多くは SAF1 が HRF1 のセカンド・チームであると理解するでしょう。SAF1 の財政危機は、SAF1 の経営判断の誤りによるものと理解すべき点もあります。しかしながら、HRF1 および Honda は、SAF1の株式を取得していない限り、SAF1 を支配し行動を制限することは、Hondaによる不当な干渉であると理解しています。SAF1に対する制限は、正当な手続きで行うべきと考えます。

*2008/5/6、SAF1 は F1 GP からの撤退を表明しました。

2. SAF1 と Honda の関係

 F1における鈴木亜久里さんとHondaの関わりは、2005年2月、亜久里さんがHondaに対して、「共同オーナー構想」を提案したことに始まります。当時のBARの株式のうち、Hondaのシェア以外の55%を亜久里さんが取得し、佐藤琢磨選手をエース・ドライバーとした純日本チームとして参戦するという構想でした。Hondaは、この提案に対して興味を示しました。しかしながら、結果として「共同オーナー構想」は実現しませんでした。今や「世界企業」であるHondaが、あからさまに日本色を打ち出すことに難色を示したためです。

 ただし、その後、Hondaは琢磨選手を放出するにあたり、彼をF1に残留させるための引受先が必要であると考えました。そのために、Honda Racing Development の和田社長が、亜久里さんに対してミナルディの買収を提案し、エンジン供給を打診したのです。亜久里さんは、ミナルディの負債およびチームをイタリアから動かせないことを理由に、ミナルディを買収するのではなく、自分でチームを設立するという決断をしました。

 誤解をしてはなりません。Hondaは、琢磨選手のためにチームを作って亜久里さんをオーナーに据えた訳ではないのです。今回の一連の出来事によって、SAF1は「ホンダが琢磨選手をF1に残すためのチーム」ではないことがわかりました。HondaにとってSAF1は、琢磨選手を放出する際の「都合のいい存在」に過ぎなかったのです。

3. 真実はどこに?

 昨年より、SAF1は自立した運営を行うことが困難となり、将来的にも安定した運営基盤を確保することに失敗しました。Hondaに依存したままのチーム運営はF1チームのあるべき姿とは言えないものでした。亜久里さんのF1参戦には、実態の疑わしい企業の名前が目立ったのも事実です。「共同オーナー構想」の資金源は、「あの」ディレクシヴでした。SAF1の経営危機は、2007年度のメインスポンサー SS United Group Company Limited の契約不履行がきっかけでした。これらは、亜久里さんの経営判断の失敗と評価されても仕方のないことです。一方で、資金さえ確保できれば、企業実態は問わないという考え方は、資本原理の観点からは決して誤りとは言えません。
 現在、F1チームの運営は、収益を期待できない事業であることも注目しておく必要があります。もはやF1は、F1というイベントが膨大な収益を上げているにもかかわらず、スポーツカーレース衰退以降のメーカーや、オーナー企業の企業戦略の一環でしか成立しないようです。

 そんな中、元F1ドライバーが運営する唯一のチームであったSAF1は、厳しい環境にも諦めることなく奮闘し、共感を得る存在でした。しかしながら、その奮闘は資本を突き動かすことはなかったのです。

 財政難に陥ったSAF1に Magma Group を紹介したのは Fry です。即ち、Fry は Magma の後ろ盾となる企業の動きを読み切れず、 SAF1 と Magma の破談につながったとも言えます。
 Fry は、「Hondaは元々2つのチームを持つつもりはなかった」と発言しました。マシンはHondaのファクトリーに運ばれたといいます。 SAF1 と Honda の関係を考えると、一連の動きは、不自然かつ不誠実なものです。
 Weigl による支援は、4/30付のHondaの役員会で決まると報じられました。しかしながら、何人かの役員が大型連休の休暇を取ったため、その役員会は流会となりました。「世界企業」Hondaの意思は、日本特有の大型連休によって停滞したとは皮肉な話です。その役員会は連休明けに行われるとのことでした。
 Weigl による支援が明らかになったとき、SAF1は参戦継続に前向きなコメントをしました。ところが、2008/5/6の亜久里さんの記者会見では「Weigl とも話をしてきたが、1週間ではどうにもならない。Weigl とは条件面などの煮詰めを行ったところで、間に合わなかった。1週間足らずでは基本合意まではしたが、煮詰めが間に合わなかった」と発言しています。それでは、なぜ「煮詰めさえ行われなかった」 Magma がSAF1と帯同できたのでしょうか。そして、トルコGPまで1週間もない時期に、本当にHondaは役員会を行う意思があったのかさえ疑問です。

 Hondaとして参戦枠を確保しながらBARへのエンジン供給に切り替えたいきさつ、ことさら強調される「世界企業」のキーワード。Hondaは何のためにF1に参戦しているのでしょうか。

 今回の一件は、F1にとって、1つのチームが消滅し、2人のドライバーがシートを失った以上の損失であると考えます。
 「Save AGURI !」…このキーワードは、チームの負債を解消し、ドライバーの地位を守れという訴えではありません。誰がSAF1を葬り去ったのか、その背景としてF1はエトラントに何をもたらしてきたのか。これらの経緯が明らかにならない限り、またこうした根本的な問題が解決されない限り、F1は失望を生み、だれをも幸福にはしないと感じています。

(管理人)

Back