3-1. クルマが最高速度で走るとき
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前回は、クルマを速く走らせるには、どういう手段であれパワーが必要だというお話をしました。今回は、そのパワーからどれだけのスピードが生まれるか、最高速度について考えてみましょう。
復習として、以下に最高出力の式を示します。
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出力…仕事率(W: ワット) |
= |
物体の質量(kg) × 加速度(m/s2) ×
速度(m/s) |
…(1)
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物体が最高速度で運動するとは、これ以上加速しないことを指しますので、式(1)を変形することによって、物体が運動するとき、その最高速度は物体の重さと出力で決まります。…決まるんですが、式(1)のままでは辻褄が合いません。式(1)において、出力と質量は定数、加速度と速度は変数であり、「これ以上加速しない」ならば「加速度
= 0」のはずですが、加速度が0ならば速度が無限大になってしまいます。ただし、実際には速度が無限大にならないことはご存知でしょう。クルマが最高速度で走っているときは、車に対する抵抗と加速度ぶんのパワーがつりあっているときということになります。
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3-2. 走行抵抗
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走っているクルマに掛かる抵抗(走行抵抗)には、主に以下の4種類があります
- 空気抵抗:
車が進む大気は流体であり、空気の粘性のために抵抗を受けて、位置を変えようとします。
(粘性…分子間の引力によって流体相互に流動を妨げようとする性質)
- 転がり抵抗:
タイヤが完全な円形であり、路面が完全な平面であれば、路面とタイヤが一点で接触し、
この点で力学的に釣り合うので、タイヤの運動に対する抵抗はありません。しかしながら、タイヤは
弾性体であるために変形し、路面にも凹凸があります。このため、タイヤと路面は複雑な面接触をしており、その面に抵抗が発生します。
- 加速抵抗:
慣性の法則より、本来物体は、静止の場合も含めて、その速度を保とうとする性質を持っています。このため、速度を変えようとする(加速)力に対して抵抗が発生します。
- 勾配抵抗: 坂道の抵抗
それぞれの抵抗について考えてみます。まずは以下に空気抵抗Fair(kg)の式を示します。
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ここで、Cd:
空気抵抗係数、A:
車両の前面投影面積(m2)、ρ:
空気密度(kg/m3)、V:
車両の速度(m/s)を表します。ρは、気温t(℃)
、気圧P(mmHg)
のとき以下の式で求められます。
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1.2932 |
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P
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ρa |
= |
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×
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…(3) |
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1 + 0.00367
t |
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760 |
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次に、以下に転がり抵抗Fr(kg)の式を示します。
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ここで、μr:
転がり抵抗係数、W:
車両重量(kg)を表します。走行中、クルマには揚力が掛かりますが、車両重量には、この揚力の影響も考慮します。
全転がり抵抗中、空気抵抗は1~3%、摩擦抵抗は5~10%、残りはタイヤ構成部材の繰り返し変形によって生じるヒシテリシスロスがタイヤ内に吸収され、熱に変わっています。タイヤの空気圧を上げることによって、タイヤの接地面積を減らし、たわみによるヒステリシスロスが減少します。
厳密には、タイヤ単独の転がり抵抗のほかに、
キャンバやトーインに起因する転がり抵抗が考えられます。クルマが走行する場合、伝動装置の一部が駆動軸と連結して回転するため、これらの内部抵抗がタイヤの転がり抵抗に加わりますが、通常は、これらの内部抵抗を動力伝達効率として扱い、走行抵抗としては考慮しません。転がり抵抗は、速度の増加につれてわずかに増加しますが、特別な高速域でない限り一定値として扱います。実数例として、185/70R14の場合で0.0066、205/55R16の場合で0.0091程度となります。
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次に、以下に加速抵抗Fk(kg)の式を示します。
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W1 +
w + ΔW
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Fk |
= |
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× |
a |
…(5) |
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g
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ここで、(W1+w)は自動車の総重量(kgf)、W1:空車重量(kgf)、w:
乗員および積荷の重量(kgf)、ΔW:
回転部分相当質量(kgf)、g:
重力加速度、a:
加速度(m/s2)を表します。いすゞ自動車のHPによると、一般にトラックでは、ΔW=0.07W1として計算しているようです。クルマには、車輪に連なる多くの回転部分があり、これらは、加速運動によってそれぞれ角加速度を生じるため、クルマにはさらに無視できない抵抗が生じるため、回転部分の質量を考慮する必要が生じます。
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最後に、以下に勾配抵抗Fi(kg)の式を示します。
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ここで、W:
車両重量(kg)、 θ:
傾斜角度を表します。
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3-3. 駆動輪に掛かる力
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エンジンのパワーは、変速機からファイナルギアを介して駆動「軸」に伝わり、駆動軸に接続した駆動「輪」を回転させます。タイヤ径が大きいほど外周も大きくなり、駆動軸1回転あたりの駆動距離が稼げることが想像できるかと思います。以上より、駆動力にはギア比とタイヤの大きさが影響します。
以下に駆動力Fd(kg)の式を示します。
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T |
× |
Gr |
× |
Gf |
× |
ET |
× |
g |
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Fd |
= |
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...(7) |
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r |
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ここで、T:トルク、Gr:ギア比、
Gf:最終減速比、 ET:伝達効率、
g:重力加速度、 r:
タイヤの動荷重半径を表します。 |
3-4. 最高速度の求め方
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いよいよ最高速度の計算に入ります。最高速度発生時には、駆動力と抵抗はつりあっている状態です。このとき、これ以上加速はしませんので、理論上、加速抵抗は発生しません。また、平坦地を走るので勾配抵抗も考慮しません。つまり、Fd=Fair+Fkが成り立ちます。この等式を速度について解くと、以下の値が得られます。 |
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( |
2×(Fd
- Fr) |
) |
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3600 |
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V |
= |
SQRT |
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× |
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...(8) |
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Cd
× A
× ρa |
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1000 |
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ここでSQRT()は√を表します。ルートの中身の単位はm/sなので、時速換算のために3600秒を掛け、1000mで割っています。
以上の式から読み取ることが出来ますが、速度は様々な要素で変化します。走行条件を同一とするため、P、t、μr、ETを定数として扱うと、T(トルク)が大きく、W(重量)とCd(空気抵抗係数)
× A(前面投影面積)が小さければ、クルマは高速で走ります。スポーツカーに求められるハイパワー、軽量コンパクトな車体は、経験則ではなく、まっすぐ走る上でも直接影響する要素であることがわかります。
Fd
(つまりT)はエンジンの回転数に応じて変化するので、ギア比と回転数ごとにVが求められ、この最大値が最高速度になります。ギア比は諸元表から得られますし、最近は公表するケースも少なくなりましたがCdが分かれば、Aを解析し、P、
t、μr、ETに便宜上の値を設定することによって最高速度が推測できます。次回は、これらの値を用いて、最高速度を推測・検証してみようと思います。
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(管理人) |